『カランコロン』二話完結(終)

サラリーマンAは、ママから手渡された手紙を読む。
万が一、失礼があってはいけないと思い、静かに読んだ。

(手紙の内容)
ともみちゃん、
お母さんはとても強くて、とても立派なお母さんだった。
今はとても辛いと思う。
今は苦しいと思う。
でも、必ずともみちゃんは幸せになるから、
必ずお母さんのように立派なお母さんになるから。
いつか、お母さんのように、優しくて、強くて、
そして立派な女性になったら、
おじちゃんも、ともみちゃんのお店に飲みに行くよ。
ともみちゃんの夢だっていう、
お母さんみたいな美人なホステスになる!
って言葉を聞いたとき、おじちゃんは嬉しかったよ。

あなたのお母さんは、どんな時もともみちゃんを忘れたことはなかったよ。
いつも、ともみちゃんの話ばかりしていたよ。
いつも、ともみちゃんの写真を見せてきて、
私に似ているから、ともみは必ず美人になる
って言っていたよ。
あとね、お母さんは、ともみちゃんが、
『お母さんみたいになる』って言ってくれたことをとても喜んでいたよ。
ともみがいるのに夜の仕事をしていて申し訳ない。
夜、寂しい思いをさせて申し訳ない。ってお母さんは思っていたんだよ。
そんな時に、ともみちゃんが笑顔で
お母さんのような美人なホステス』って言ってくれたのは、
お母さんは今までの人生で一番幸せだったって。
おじちゃんは、あまり力にはなれないかもしれないけど、
今日みたいに、お腹いっぱいにはさせてあげれるから。
頑張れともみちゃん、お母さんのように強くなれ。

手紙を静かに読み終えたサラリーマンAの目にうっすらと涙がたまっている。

この後、めずらしくママは自分の話を始めた。

(ママのともみ)

私がまだ5歳のころ、私のお母さんは病気で亡くなったの。
とても辛くて。とても悲しくて。
いつも下ばかり見ているような時に、このおじちゃんがたまに食事に連れて行ってくれたの。
私は、母が死んだあと、母の兄の家族と同居することになったの。
おじは優しくてよかったんだけど、、おじの奥さんが私を嫌がってね。
そりゃあそうだよね。
そんなに裕福な家柄でもないから、ただでさえ大変なのに。
私が急に来たもんだから、おじの奥さんは嫌だったんだと思う。
おじがいる時は、おじの子供達と一緒に食事してたんだけど、
おじが仕事でいない時は、私だけ食事のメニューが違うの。
私だけ、なんでかお芋ばっかり食べさせられてた。
おじの子供は、美味しそうにとんかつに焼き肉。
そんな時に、たまにおじちゃんが私を遊びに連れて行ってくれたの
おじちゃんといる時はいっつもお寿司を食べに行ってた。
おじちゃんはおかあさんとよくお寿司屋さんに行っていたらしいの。
いつかともみちゃんと一緒に三人でって言ってたらしく、
ただ、お母さんが早くに亡くなったもんだから、
三人では一度も行けなかった。
いっつもお寿司をたくさん食べさせてくれる私の足長おじちゃんっ。
お寿司ばっかり食べているせいか、いっつもお寿司のシャリの匂いがするの。
あの甘いお酢の、美味しそうな匂いが。

今日のママはよくしゃべる。
聞けば、そのおじちゃんは、ともみママの母親の彼氏だったらしい。

付き合って間もない頃に、母親は病気だと知り、
それでも最後まで看病をしてくれていた、おじちゃん。
そして、何かとともみちゃんを気にかけてくれていたらしい。

要するに、まだお店があるうちに、
おじちゃんに飲みに来てもらいたいのだろう。
自分の母親を大事にしてくれていた事、自分を気にかけてくれていた事、
そして、立派な大人になった自分から、きちんとお礼を伝えたかったんだろう。

(ママのともみ)
私ね、本当に自分の母親とそっくりなの。
だから、おじちゃんが来てくれたら驚くだろうな~って。
でも、もう20年以上も会っていないからね。
さすがに会えないかもね。


その『おじちゃん』は、ともみが10歳になる頃に、
勤めていた会社の転勤により海外に行ってしまった、との事だった。

ともみママも今年で31歳。
そろそろ夜のお店を閉めて、子供を作ろうかと旦那と話をしているらしい。

サラリーマンAは、こんな人間味ある空間と話に心から感動し、
格別なお酒を味わっている。

(サラリーマンAの心)
『普通のスナックや夜のお店では、女が男を、男が女を騙したり騙されたり。
友達って言っても、本音で語り合うこともしない。
なのに、このお店は、他人なのに、心がとても落ち着く。
せっかく、居心地のいいお店と出会えたけど、しょうがないか。』

ともみママの話に、ナナ子もミサも感動し、
サラリーマンAは、なぜか心が満たされていく感じを覚えた。

(ともみママ)
『でも、思い出は思い出だしね!
旦那も、そろそろ子供が欲しいっていってるし。
来月いっぱいでお店は閉める!決めた!』

ともみママの決断にナナ子もミサも大きくうなずき、賛成する。
サラリーマンAは、ゆっくりと味わいながら焼酎を飲む。

その時、

『カランコロン』

お店のドアが開く音がした。

ドアの近くから、ほのかに『甘いお酢の美味しそうな匂い』がした。

終わり

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