ヤクザは素人には引き下がれない。
引き下がる気持ちも全くない。
Aも同じだ。
Aは、どことなく自分の死を待ち望んでいる。
(Aの心)
『所詮この世は暇つぶし。
悪人だらけの世の中で、ただただ楽しく時間を潰すだけの毎日。』
ヤクザは部屋の中に6人もいる。
Aには仲間はいない。一人だ。
Aの腰には、スーツに隠れて忍ばしている黒い漆黒の警棒が2本。
主力のヤクザがAを睨みつける。
Aは、これから『割に合わない仕事』と『自分の寿命を縮める』事になる事を
強く感じている。
それと同時に、とても楽しくなり、満面の笑みでヤクザを見つめる。
部屋の中は、異様な静かさと狂気で空気が歪んでいく。
ヤクザ事務所の外で、
出前のバイトをしている学生が自転車に乗っている気配を感じる。
そして、たまたま学生の自転車の前を黒い猫が通り過ぎる。
(自転車)『キキーッ』
自転車のブレーキ音が甲高く響き渡った瞬間、
『暴力の時間』が始まった。
6人のヤクザのうち、3人がAに襲い掛かる。
Aの動体視力と反射神経は尋常ではない。
まるで時間が止まっているかのように、Aの目にはスローな動きのヤクザが見える。
何より恐ろしいのは、A自身が育んできた『狂気』である。
狂気は人を育て、人を強くする。
後から襲い掛かって来たヤクザのうち、2人は刃物を振りかざしAに今にも襲い掛かろうとする。
Aは、2本の警棒に、強力な『ケリ技』を駆使し、5人のヤクザをのした。
主力のヤクザはそれでも引き下がる気はない。
(ヤクザ)
『とうとう素人が俺たちに手を出したな。
これでお前の人生は終わりだよ。
一生俺らヤクザに、的にされる人生だ。
もう二度とまっとうな人生は送れねえぞ。』
ヤクザの言葉は、Aにとって、とても『心地よい言葉』に聞こえた。
幼少期から辛い現実を目にし、
母親の不倫をきっかけに人を信じなくなり、
暖かいぬくもりを忘れたAにとって、ヤクザの乱暴な脅しのほうが
まともに感じたのである。
(ヤクザ)
『ワビを入れるんなら今だぞ。命は助けてやる。
ほら、はやく。。。』
ヤクザは最後まで会話が出来なかった。
Aの警棒で、ものの2秒もしないうちにやられた。
Aは躊躇する事はない。
Aは、自分の死が近づいてくるのを、ただただ楽しんでいる。
(Aの心)『楽しい』
先程、一番初めにAに倒された、
雑魚だと思っていたヤクザの一人が起き上がる。
(A)
『寝てたほうが身のためだったのに。まだやるの?』
雑魚だと思っていたヤクザの一人は、
部屋の中で倒れている残りのヤクザ5人を順番に、
そして確実に刺し殺していく。
雑魚だと思っていたヤクザが、一人、また一人と、
自分の仲間であるはずのヤクザに、とどめを刺している時、
Aの体の底から、『緊張と恐怖』の匂いがしてきた。
(Aの心)
『この男は、雑魚のふりをして息を潜めていた。
気づくのが遅かった。この男の狂気は異常だ。』
Aは、今までの人生で一番の緊張と、危険な空気を感じ、
そして、部屋の空気がさらに一段と狂気で充満していく。
(雑魚だと思っていたヤクザ)
『あんたには感謝するよ。やっとこれで俺が出世できる。
こんな頭の悪い、弱いヤクザどもに仕えていたのは本当地獄だったよ。』
(A)
『そいつはよかったね。それでどうするの?』
(雑魚だと思っていたヤクザ)
『そうだな。お前がしゃべれないように顎を割り、
下を切り落として、両目をくりぬき、隣町に戻って親分に引き渡すよ。
出世に、金に、女に、暴力、これぞ最高の俺の人生だ!』
Aは、雑魚だと思っていたヤクザにケリかかる。
ヤクザも対抗して、激しい『暴力』対『暴力』となる。
狂気では、ほぼ互角の戦いだ。
一瞬でも互いの狂気にのまれたほうが『死』を迎えることを、
二人は暴力を通じてお互いに感じている。
二人の命がけの戦いを、審判のように『死神』が見守っているようだ。
Aが死ぬのか。ヤクザが死ぬのか。
死神が楽しそうに見守っているのを感じて、
二人は、最高に命のやり取りを楽しむ。
5分以上もお互いの命をかけた暴力の争いが激しさを増す中、
部屋に人が入ってきた。
●●子と●●子の娘だ。
娘は、たまたまAがヤクザ事務所に入っていくのを目撃した。
すぐさま、●●子(母親)にAが危ないと伝える。
●●子(母親)は慌ててヤクザ事務所に向かう。
娘もついてきてしまった。
狂気で充満し、命と命の削り合いをしていた二人の狂犬の争いの中に
●●子と娘が声を上げる。
『やめてください!』
雑魚だと思われていたヤクザが、●●子と娘を見つめる。
●●子と娘は、雑魚だと思われていたヤクザの顔を見て驚愕する。
『この人。。』
昔、港近くの廃ビルには、ストーカー男と蛇と言う通りなのヤクザ、
そして、もう一人、蛇の子分がいた。
それがこの男だ。
通り名は『狐(キツネ)』、
暴力に金に女に、そして地位を欲しがる『悪の野心家』だ。
狐は、昔廃ビルで、蛇に犯された●●子を、さらに狐が犯そうとし、
止めに入ってきた当時4歳の娘の両眼を指2本突き立てて刺した。
●●子はAと娘の手を取り、部屋を抜け出す。
●●子の手が異常なほど震えていたため、Aも思わず握り返した。
隣を見たら怯えている娘の顔。
Aは、●●子の家に入り、
当時の『イカツイお兄さん』と『あの事件』の真相を聞く。
後日、Aは『イカツイおじさん』に会いに、久しぶりに地元に戻った。
続き⇨『とある不動産や~14話』