とある不動産や(物語⑥)

燦燦と煌めく夜のネオン街、
女が男を、男が女を騙し騙されの混沌とした大都会、
宝町』にAは根付いた。

Aには絶対的な『地上げ屋』のスキルと巧みな交渉能力がある。

Aは、『家賃滞納回収』と『立ち退き』のスキルを駆使し、
街の裏方として地上げ屋としての地位を確立していく。

『家賃滞納に困った時はAさん』

『入居者を追い出したいならAさん』

『土地を買い上げたいならAさん』

すっかり街の『裏の顔』として自分の存在を確立した。

ある時、Aに変わった依頼がきた。

(依頼人)
『私達が住んでいるアパートがあるんですが、一度も家賃滞納もしたことがないのに急に出ていってくれって大家さんに言われたんです。
娘もまだ小学生ですし、転勤してやっと新しい学校に馴染んだばかりなのでアパートを出たくありません。たまたま仕事先でAさんの噂をお聞きしました。どうか、私と娘を助けて頂けないでしょうか?』

頼りなさそうな母親と、その隣で下ばかり見ている物静かな娘を見たAは、

(A)『申し訳ないけど、本来俺の仕事はあんたらみたいな人達を追い出して金を貰っている。逆はしたことがないんでね。』

少しの期待と、不安で今にも崩れ落ちそうな心になっている母親は、
何度もAに頭を下げる。

(依頼人、母親)
どうか、どうかお願いします。どうかお願いします。

Aは、自分の母親や過去出会った黒髪の女性のこともあり、大人の女性に対しトラウマがある。

(A)『断る!』

Aが足早にその場を去ろうとした時、
ずっと顔を下に下げていた娘の手がAのズボンをつかむ。

(A)『なんだ?』

(依頼人、娘)『猫がいるの。まだ小さいの。

(A)『ネコ?』

(依頼人、娘)
『この間、大家さんとスーツを着た人達が、あのアパートを売って、大きなスーパーを作りたいってヒソヒソ話しているのを聞いたの。
だから私達が邪魔なんだって。私は別にいいの。お母さんがいてくれるから。
でもあのアパートにいつも来ているネコちゃんが行くところがなくなるでしょ。だから。』

Aの脳裏に、昔に追い出され、取り壊された『橋村商店』の映像が蘇る。

Aは、
『わかった。たいして金にもならなそうな仕事だけど、今回だけ引き受けてやる』と娘に伝えた。

娘はとても喜び、母親も嬉しくて泣いている。

ふと、娘の顔を見たAは驚く。

(A)『お嬢ちゃん、右目はどうした?』

髪に隠れていて気づけなかったが、娘の右目はなく、小さな左目だけでAを見つめていた。

(依頼人、母親)『まだこの子が幼い頃に事故がありまして、何とか命は助かったんですが、』

Aは、母親と娘に『あとは俺が交渉するから、いつも通りの生活をおくってくれ』と伝えて去ってゆく。

去ってゆくAの後ろ姿を見つめていた娘が不思議な感覚になる。

(娘の心の声)『前、あんな背中の男の人を見たことがある。』

娘は幼いながらに、自分にとって大切な人を感覚で覚えている。

そう、Aの師匠である『イカツイおじさん』だ。

ここから少し、『イカツイおじさん』の物語に入るとする。

続く。
続き⇨『とある不動産や~7話』

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