Aの母親は、毎朝5時過ぎに起床する。
子供達の朝ごはんの『パン』と『目玉焼き』を作り置きし、
6時には化粧を終え、6時過ぎには近所のスーパーへとパートに出かける。
Aの母親は朝の6時半から12時までパートをし、一旦自宅のアパートに帰宅する。
帰宅すると、母親は父親と子供達の夕食を作り置きする。
家事も夕方までには済ませる。
午後6時になると、母親は近所のスーパーに戻り、店内の裏方として事務業をこなす。
帰りはだいたい夜の10時~11時くらいになる。
父親は朝3時から仕事が始まるため、夜の8時には寝床につく。
こんな日常が7年間も続いていた。
タケル君のクリスマスパーティーを追い出されたAは、とても落ち込み、帰路をトボトボ辿っていた。
時間はまだ夜の8時。
その帰路の途中、Aは、母親の働いているスーパーの裏通りを通る。
すると、母親がいるのが目に入る。
Aは母親の姿を見ると嬉しくなり、走って母親のもとに向かう。
もう少しで母親の近くにつく前に、お店から一人の男性が現れる。
Aは少し驚いて、物置に隠れてしまう。
母親と男性は、とても楽しそうに会話をしている。
次の瞬間、母親と男性は抱き合い、キスをした。
だんだん母親と男性の絡みはエスカレートし、Aは頭が混乱する。
Aは、その場を走って逃げた。
家に帰りつき、Aは何事もなかったように自分の部屋に戻り寝床につく。
Aはさっきの母親の行動を思い出し、急に吐き気をもよおす。
何も知らない父親は、ただただ熟睡している。
次の日、Aは今年最後の野球の練習に参加する。
タケルがAに近づいていく。
タケルは、『お父さんが、もうA君とは親しくするなって言うけど、僕はA君と仲良くしたい』と言う。
Aは、『タケル君の気持ちは嬉しいけど、僕と仲良くすると親が怒るんじゃない?前みたいにとはいかないけど、僕はタケル君とは親友だと思っているよ』
タケルは安心していた。親のせいで嫌われたのかと思ったからだ。
Aは、タケルの事は好きだ。しかし、タケルの父親については別だ。
Aは、タケルの父親についてもっと知りたい為、タケルと親友ごっこを続ける意思を密かに持った。
『いつか、なぜ僕たちが家を追い出されたのかを問いただしてやる』
Aは、中学生になった。
Aは、夜8時になると、スーパーから母親の後を追い、今まで仕事だと思っていた母親の行動が違うという事を更に知る。
母親は男性の住むマンションに、男性と一緒に入っていく。
出てきたのは2時間後のよる10時過ぎだ。
Aは、母親がいつも夜10時~11時ころに帰宅する理由が分かった。
Aは心の底からショックだった。
Aの目つきがまた一段と鋭くなっていく。
Aはこの日を境に素行が悪くなる。
目つきは悪く、態度も悪い。
そんなAを見てムカついている中学の上級生がAに目を付ける。
ある日の夕方、学校が終わり、Aがタケルと帰っていると、途中の公園で上級生の不良がたむろをしていた。
不良の一人がAの前に立ちはだかり、
『お前、目つきが悪いな。なめてんのか』
とAに詰め寄る。
Aは、不良の威圧感にビビってしまい、足がすくんでしまった。
次の瞬間、Aは不良に殴られた。
殴られたAを見て、タケルはAをかばう。
タケルは『A君が何をしたっていうんですか、』
タケルの反発に不良は怒り、タケルを何度も殴り、蹴り続ける。
何度も殴られているタケルを見て、Aの中で何かが壊れる。
Aが今まで見て来た光景である『自宅の解体』『橋村商店の看板のはがされる瞬間』『タケルの親にクリスマスパーティー中に追い返されたこと』
そして、『母親の不倫現場』。
Aは道に落ちていた木の枝を手に取り、不良の目をめがけて差し込む。
不良は痛み叫ぶ。
他の不良たちもAにつかみかかって来た。
Aは不良の目や口、喉、急所を容赦なく攻撃する。
Aの怒りや憎しみの心が『強い暴力』を生み出した瞬間である。
Aは自分に人一倍『暴力』が備わっていることを自覚する。
その次の日も、不良たちはAに絡み続ける。
Aは、普段のストレスや怒りを不良たちに全てぶつける。
多勢に無勢という不良の数もあり、Aは、鉄の棒を鞄に入れ、持ち歩くようになる。
Aは自分の腕っぷしの強さに気づき、毎日夜中まで『暴力』を鍛え上げる訓練をする。
気づけば、Aが通っている中学の不良たち全員が恐れる『一匹オオカミ』になっていた。そんな暴力に取りつかれたAをタケルは心配している。
Aはタケルに、
『お前に何かあったら俺が守ってやる。でも一つ覚えて置け、お前の父親は俺の父親を守ってはくれなかった。俺はお前の親父とは違う。』
タケルは何のことだか分からず、ただただ、歩いていくAの後ろ姿を見つめていた。
Aは中学3年生になった。
もうそのころには、Aにちょっかいを出す不良はいなくなっていた。
Aも不良との喧嘩は飽きてきて、何かお金になることはないかと、夜の街に繰り出した。
夜の街は華やかで、Aは目に映るもの全てが新鮮で心が躍っている。
少し飲み屋街を歩いていると、Aの目の前で、知らないおじさんが『チンピラ』に絡まれている。
どうやら、おじさんは酔って歩いていて、チンピラとぶつかったようだ。
Aは、殴られそうなおじさんとチンピラの間に入りこむ。
『おじさん、助けてほしい?助けたらいくらくれる?』
Aはおじさんに聞いた。
おじさんは、『2万円くらいなら、、』
とAに小さな声でつぶやく。
(A)『商談成立だ。少し待ってて』
Aは腰に入れている2本の警棒を手に持ち、チンピラを数秒で失神させた。
Aはおじさんに手を差し伸べる。
おじさんは、Aの手を握り、『ありがとう、助かったよ』と握手する。
Aはおじさんの手を払いのけ、
『いいからさっさと2万円支払え、約束しただろ』と睨みつける。
おじさんは慌ててお金を差し出す。
この日からAは、街でからまれたり、喧嘩を売られた不良やおじさんをカモにして小遣い稼ぎをする。
Aのトレードマークは、腰に携えている2本の警棒。
街の不良たちは、Aの事を『ケー坊(けーぼう)』と陰で呼んでいた。
ある程度稼ぎ、ある程度の認知されるようになったAに試練がくる。
ヤクザのチンピラともめることになった。
Aに詰め寄って来たヤクザは、
『子供が調子のるなよ』と脅す。
自分の力を過信しているAは、ヤクザの脅しにも動じなかった。
『あんたも調子にのっていると失神させるよ。』
ヤクザはAの発言にキレて、Aを殴ろうとする。
Aもヤクザを返り討ちにしようと構える。
その様子を見ていた1人のイカツイおじさんが、Aとチンピラの間に割って入る。
『まあまあ、子供じゃないか、今回は勘弁してあげてくれ』
ヤクザは、
『ふざけるな、お前のようなクソじじいがでしゃばるんじゃねーよ』
と声を荒げる。
ただ、次の瞬間、ヤクザの足が一瞬すくんだ。
ヤクザは、止めに入ったイカツイおじさんの左目が無いのを見て、
また、異様なおじさんの空気を感じ、背筋が凍った。
ヤクザは、文句を言いながらも帰っていった。
イカツイおじさんは、Aに話しかける。
『近頃、警棒を振り回しているガキがいると聞いているけど、君かい?』
Aはイカツイおじさんをにらみつけ、
『助けてもらわなくても、自分で対処できた』と豪語する。
イカツイおじさんは、
『腹減ってないか?とりあえず飯でも食おう』とAを誘う。
Aはその日の夜はまだ何も口にしていない。
Aはおじさんについて行き、小汚い定食屋に入る。
『サバ味噌定食2つ!』
おじさんは定食を注文すると、Aに話しかける。
『なんで毎日喧嘩するんだ?』
Aが答える。
『別に。金が無いから、小遣い稼ぎだよ』
しばらくしてサバ味噌定食が出てきた。
おじさんとAは無言で食事をする。
一生懸命にご飯を食べているAを見て、おしざんは優しい顔で見守っている。
食事も終えた頃、おじさんはAに問いかける。
(おじさん)『お金が欲しいのか』
(A)『欲しい』
(おじさん)『どれくらいお金が欲しいんだ?』
(A)『たくさん』
(おじさん)『たくさんってどれくらい』
(A)『昔住んでいた家みたいに、魚屋と家を作れるくらい』
(おじさん)『・・・』
おじさんは、Aに、
『毎日喧嘩したり、暴力に頼っていても大きくは稼げないぞ。おじさんが稼ぎ方を教えてやろうか』と伝える。
Aは、『何をやらせるの?怪しんだけど』とおじさんを疑う。
おじさんは話を続ける。
『このネオン街を見てみ、華やかだろ。でも20年前はただの大きな空き地だったんだ。おじさんはその大きな空き地に、商売をしたい人が商売をしやすいようにして大きく稼いだことがあるんだ。お前も街を作ったり、そういう手伝いをして稼いでみないか?やり方は、俺の持っているもの全てを叩き込んでやるよ。』
Aは、おじさんが嘘を言っているようには見えなかった。
Aに断る理由はない。
帰りたくもない自宅に、金にならない不良共の相手、いつ捕まってもおかしくない街での振る舞い。
それにヤクザに目を付けられたら家族だって危ないかもしれない。
Aは正体不明のイカツイおじさんから『稼ぎ方』を教わる『下積み』の日々をこれから経験する。
続く。
続き⇨『とある不動産や~3話』