立退きの正当事由とは

長らく不動産に携わっている人は『入居者の立退き』問題に直面する事もあるかと思います。

・入居者が家賃を3カ月以上も滞納している
・ペット不可の物件でペットを飼っていた
・夜に騒音で隣近所の入居者に迷惑をかけている
・共用部(廊下など)に自分の物をずっと放置している

これらは、『賃貸借契約書』に違反行為や退去要因としてきちんと記載しておけば入居者の立退きに有効的です。
問題は『日ごろより丁寧に住んで頂いている入居者』に対して立退き相談をする事が大変なんです。

例えば、
築40年の木造アパート(10世帯)で、建物が古くなり『そろそろ建替えか売却』を検討したいと思っている大家さんのケースを想定します

(想定内容)
・4部屋のみ入居済(残りの6部屋は貸していない状態)
・4部屋の内、2部屋は20年以上も住んでおり、良好な入居者である
・入居者とのトラブルは全くなく、どのように相談してよいか分からない状態

この場合の大家さん側の『正当事由』は弱いと感じる方も多いのではないでしょうか。
しかし、築40年の木造アパートという事がポイントとなります。

木造住宅の法定耐用年数は『22年』です。
また、昔の建物(新築が昭和~平成10年程)には耐久年数を表示していたり、保障している建物はほとんどありません。

ワンポイント解説
耐用年数と耐久年数は意味が違います
耐久年数とは建築メーカーなどが独自判断で「これくらいの期間は問題なく使用できる」と公表しているものです
その判断の根拠に特に決まりはなくあくまでも推定であると考えたほうがよいでしょう

一方、耐用年数とは機械設備や建物などの固定資産の使用できる期間として、法的に定められた年数のことです
国が「資産価値はこれくらいの期間でなくなる」と定めた期間を指します。

つまり、今の建物の状態が『倒壊する可能性』がある古い建物であるかどうかという事がポイントとなります。

私に大家から相談があった場合には、『まずは建物の老朽化がどれほど進んでいるか』を一級建築士に調査してもらう作業をお勧め致します。
2階建て木造アパート(普通の家3件分くらい)であれば、費用は20万~30万くらいで調査報告書を建築士が作成してくれます。

そしてその報告書の中に『このままにしておくと危険だ』という建物部位の写真やコメントをもとに、
悪い箇所の『補修作業(改修施工作業とも言います)』を行うといくらくらい必要なのかを建築士に相談します。(ざっくりした金額で構いません)

私の経験上では、上記アパートくらいの規模でも1,000万円以上必要だというケースが多くあります。
これでは大変困る大家さんもいると思います。

あくまでも当事者同士(大家と入居者)の相談である為、裁判所が認める正当事由であるかどうかは未確定ではありますが、『万が一、大きな地震や災害をきっかけに入居者の命に関わる事態』となる恐れがあるアパートだと判明し、『大きな補修費用の負担が厳しい』と大家さんが思っているため、良好な入居者さんには申し訳ない相談ですが『引っ越しのお願い』をする

この基本的要素を準備してから良好な入居者さんに相談されることを私はお勧め致します。

良好な入居者さんであれば、『自分たちの健康や命に関わる要素がある相談』として聞き入れてくださるケースも多いです。

しかし、この準備ではまとまる事もまとまらないケースも出てきます。

いくら良好な入居者であっても『引っ越し代が誰が持つのだろうか』とか、『新しい住処を探す手間』を口にする人が多いからです。

ここでもう一つの準備として、『お金』の内容を大家さんは覚悟しなければいけません。

通常であれば、大家さんの事情がきっかけで相談しているので『引っ越し費用や引っ越しにかかる経費は大家負担』とする事が望ましいでしょう。
裁判事例も多数ございますが、『入居者の引っ越しにかかる費用に加え、新しい移転先の家賃3カ月分~6カ月分を支払え』という事例もございます。

これが、営業を兼ねている『テナント』となりますと引っ越し費用に加え『営業補償金としてその店舗で売り上げている1年分の売上金を支払え』という事例もございます。

例えば、今回のけーすであれば
入居者の引っ越し費用+新しい新居の家賃3カ月~6カ月×4部屋となる可能性を考慮しておかなければ相談事が進まない事もございます。

とはいえ、この大家さんが売却を検討している方であれば、それ以上の大きく見込める売却益があると想定した場合には『チャレンジする価値』があるかもしれません。

おそらくこの記事を読んで『チャレンジ』した場合に、いくつかの失敗も経験すると思います。

立退きには『法的な知識』と『事前準備』と『交渉力』が不可欠であるからです。
また、法的なお話をしますと『当事者以外の人が代理人』として入れるのは弁護士しかおりません。
弁護士がいきなり『私がこのアパート大家の代理人です』と相談にきたら、入居者の中には『今まできちんと家賃を支払い、良好に使用しているのに弁護士をよこしてきやがって』と感情的になる人もおります。

そして、弁護士は相談事が上手く行かなくても『1件につき着手金10万~30万』と損のない仕事となり、
最悪調停や裁判まで発展しても『別途●●万円』という形で報酬額が増えます。
要は、信頼がおける代理人でないと『かえって話がこじれて支出が増える』という事です。

もし皆さんの周りに入居者の立退きに関わる業務経験者がおりましたらその人は大家さんにとってとても貴重な方かもしれませんね。

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