Aの兄は、とても優しい。
まだ兄が6歳の頃にAは生まれた。
兄は初めての弟に感激し、弟を何よりも可愛がっていた。
『橋村商店』から家族が出ていく事になってから、
兄も家族と過ごす時間が無くなっていった。
ただ、兄は既に中学生となっていたせいか、
親の事よりも、自分の好きな人や仲の良い友達との生活で、
充分に満たされていた。
兄が20歳になる頃、Aはまだ中学生。
にも関わらず、街でAの話をよく耳にする。
まさかと、兄は思っていたが、
ある日、夜の街で兄は友達とお酒を飲んでいた時、
Aが数人相手に暴力を駆使し、暴れている姿を見た。
兄は、Aの顔が、昔の可愛かったころの面影はなく、
ただ、とても狂気に満ちている姿が、
本当に弟かどうか疑ってしまうくらいだった。
当時の兄は、地元の小さな会社に就職しており、
彼女と同棲をしていた。
特に裕福でもないが、特段貧しくもない。
どこにでもいる『普通に幸せなカップル』だ。
Aが学校で問題を起こし、先生への対応が必要な時は、
父親や母親には一切の連絡はせずに、
『Aが何かしでかしたら自分に連絡をしてください』
と先生たちに頭を下げていた。
兄は、朝が早く過重労働の父や、
朝・夕方とパートに家事に忙しい母の負担を少しでも軽くしたいと思っていた。
兄は、自分がAの学校の先生たちによく呼び出されいて、
Aの事で文句を言われていることを、Aにも親にも黙っていた。
先生にも、
『Aが、ああなったのは、あいつのせいじゃない。
だから、あいつの悪さで何かあったら全部俺に言ってください。』
と、クギを指し、なるべくAを逆なでしないようにしていた。
(Aの兄の心)
『あいつは悪くない。あいつは本当は静かで優しい奴なんだ。
あいつは悪くない。』
Aの兄は、たまに母親のスーパーにも足を運んでいた。
兄は、母親に彼氏がいることを知っていた。
兄は、母に、
『Aの為に別れてくれ。Aが知ったら傷ついてしまう。』
と、何度も母を説得していた。
母は、そんな兄の説得に応じれず、好きな彼氏に没頭する。
色々あり、Aも母親の事情を知る。
Aは冷たい表情と、自分の持っている『暴力』で遊びだす。
兄は、少しでも家族の為に出来ることはないかを模索する。
兄の想いは敵わず、家族はバラバラとなる。
Aは、地上げ屋を目指し、家を出る。
母は、相変わらず彼氏に夢中。
父親は、以前ほどではないが、お酒に頼る日々。
時が経ち、兄は、タケルの悪さに気づく。
一度は見逃してしまったが、タケルの悪さの根底は変わらない。
ある時、兄は、仕事の関係でタケルのいる銀行へと向かう。
銀行につき、取引先との商談を終え、
兄は、銀行の裏にある『喫煙場所』に向かい、タバコを吸おうとする。
すると、
『やめてください。困ります。』
タケルが、同じ銀行員の職員である若い子にセクハラをしている姿を目撃する。
タケルは人の気配に気づき、セクハラをやめる。
若い女の子は、目に涙をため、唇は青ざめており、
とても震えながら足早に銀行内へ入っていく。
(Aの兄の心)
『タケルは変わらないな。こんな人間は放っておいてはいけない。』
兄は、早速行動に移す。
実家にあった『Aの卒業アルバム』の裏に書いてある、
同級生の住所や連絡先をもとに、
『タケル』の悪さを調べつくす。
調べれば調べるほど、山のように出てくる。
そのうち、5名の女性が、意を決して兄の考えに賛同する。
兄は、5名の女性に、当時の被害状況や場所などを鮮明に書き出し、
各報道局へ投函する。
女性は、名前が知られたくないという人もおり、
匿名で書き出した。
そのあと、兄は各局へ連絡をし、
兄が主導で弁護士と一緒に、報道陣へ『タケルの残虐性』を訴えた。
後日、タケルは『実刑判決』となり、
タケルの『運のいい人生』は終わりを告げた。
地元で、報道が兄の主導によるものだとバレた。
兄は、タケルの父親の息がかかっている取引先などから煙たがれ、
職場でも肩身が狭くなる。
兄は、タケルの犯罪を調べていくうちに、タケルの父親がしてきたことで、
『橋村商店』、つまりタケルの父親(竹下)が、
自分の父親を騙していた事を知る。
兄は、Aには伝えなかった。
もし、Aが知ったら何をするか分からない。
兄は、自分でタケルの父親(竹下)に復讐しようと動き始めた。
続く。
続き⇨『続編、Aの兄~とある不動産や』