Aがソファに座り、
自分の命の終わりを待っている頃、
外の世界では、
Aの立ち回りにより、
Aの狙い通りに物事がまとまっていく。
Aは、
ヤクザ事務所に乗り込む前に、
警察署に、『狐』が今までしてきたこと、
身内のヤクザ5人を刺し殺したこと、
そして、
今後も『狐』は危険な人物であることを伝える手紙と、
身内のヤクザ5人を殺した時に使用した、
狐の指紋がついている『小刀』を添えていた。
また、同様の内容を『隣町にいる狐の親分』の事務所にも投函した。
昔からいる宝町の地元ヤクザの親分は、イカツイおじさんの知り合いだ。
地元のヤクザの親分から隣町にいる狐の親分に話が通る。
昔の非道残忍な事件が、狐も首謀者の一人と知り、
地元の親分は惜しみなく動いてくれる。
これで、●●子も娘も安全だ。
一方、Aの家族はというと、
父親は、母親と『橋村商店』をやり直したかったが、
母親はすでに、パート先で不倫をしていた男に惚れている。
母親は、Aの通帳を持ち出し、不倫男に手渡す。
不倫男は、ギャンブルや女癖が悪くて、多額の借金をしていた。
不倫男に惚れているAの母親は、ただ上手く利用されている。
Aの父親は出て行った母親がきっかけに、
またアルコール中毒へと戻る。
Aの『橋村商店』の想いと、
『家族の家』は妄想として消えていく。
昔、Aが好きになったことのある『黒髪の美人』は、
その後、彼氏に散々利用され、捨てられた。
そして今は、別のゲス男に貢ぎ、騙されて生きている。
黒髪の美人の口から腐った男たちの匂いがする。
イカツイおじさんと●●子と娘の幸せは、
わずかながらに存在する。
これから、
『片目の父親と片目の娘』として、学校でいじめにあう娘。
そんな娘の人生を少しでもよくしようと、
イカツイおじさんと●●子は、毎日一生懸命に頑張る。
それでも世間の「現実」を、これからたくさん味わう三人。
宝町は、今日も『何も変わらず』いつも通りだ。
今日、どこで誰が死んだなんて、誰も興味がない。
誰かが、何かを話すと、ただその話に合わせるだけ。
誰も自分の意思はない。
そもそも自分の意思がないことすら気づいていない。
男女は、それぞれが『自分の欲』を満たそうと必死だ。
そんな、美しく醜い欲の塊である人間を肴(さかな)に、
今日も『死神』が嬉しそうに酒を飲んでいる。
自分の意思だと勘違いしている『生物的な欲』に操られ、
今日もどこで誰がどうなろうと関係ない。
この街では、公園で人が死んでいても、
その日に気づく事はほとんどない。
男が女を、女が男を、騙し騙され、今日もいつも通りの一日だ。
Aがゆっくりと命の最後を迎えようとしていたその時、
Aの脳裏に、昔の光景が描き出される。
Aが幼少期の光景を見る。
公園には砂場があり、
Aは、砂場で遊んでいる近所の友達をじーっと観察する。
物静かで恥ずかしがり屋のAは、
皆に話しかけられずに、ただ立っている。
Aは公園の砂場で、
『みんなと一緒にスコップでお山が作りたかった』
たったそれだけが望みだった。
Aは動物園に行ったことがない
Aは花火大会やお祭りに行ったことがない
Aは恋人ができた事もなければ、夜に輝く夜景を眺める経験もない
Aは温泉に入ったことも、イルミネーションを見たことも、旅行をしたこともない。
Aの最後の瞬間、
Aの右腕が一瞬、何かを掴もうとした。
誰かがAにスコップを貸してくれたとAが勘違いしたのだろうか。
でも、現実では『誰もAにスコップをかしてはくれない。』
Aは、最後まで、じっと静かに目を開いている。
狐に視力のほとんどを奪われ、赤い目をしているA。
Aにはうっすらと幻覚が見える
目の前には、楽しそうに公園で遊んでいる子供達、
スコップを貸してもらえなく、
一人で隅っこに立っている幼き頃のA。
Aは、ただ隅っこに一人で立っている。
(追伸)
『とある不動産や』を最後までお読み頂きまして、誠に有難う御座いました。
後日、『とある不動産や』の番外編や短編集を投稿させて頂きます。
改めて楽しんで読んで頂けましたら幸いです。
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