数週間すると、娘の包帯は綺麗にとれ、左目はとても見えるようになっていた。
ただ、娘にも廃ビルでの出来事で深いトラウマができた。
そんな娘のそばに母親の●●子がいた。
二人は、少しでも力をいれたら割れてしまう風船を抱えるのかように、静かに、ただ確かに抱き合った。
(娘)『イカツイお兄さんは?』
(●●子:母親)『いなくなった。』
娘はいなくなったイカツイお兄さんが愛おしく、もう会えないかもしれないという直感から寂しくなり、ゆっくりと顔を下に沈めていった。
イカツイお兄さんは、地元の不動産屋を辞め、そして人間を辞める覚悟を持ち、
ただただ狂気の塊として存在していた。
警察に、
『まだストーカー男と蛇は見つからないのか?』と問い詰め、
武道家仲間に、
『頼む。絶対に見つけてくれ。』
とお願いし、
いつでも怒りを二人にぶつける準備が出来ていた。
それでも見つからないストーカー男と蛇に、イカツイお兄さんは苛立っていた。
そして、我慢が出来ずに、宝町にある地元のヤクザ事務所へと出向いた。
(イカツイお兄さん)
『蛇をしらないか?弟も一緒のはずだ。』
地元のヤクザは、
『蛇は知っているが、うちの組とは関係ない奴だ。』
(イカツイお兄さん)
『そうか。どうにか蛇を探せないか?』
(地元ヤクザ)
『探してやってもいいけど、見返りは何をくれる?』
イカツイお兄さんは、左目の包帯をほどき、目の無い左目で地元ヤクザを睨みつける。
(イカツイお兄さん)
『こっちの右目をくれてやろうか?指でもいいぞ。何本でもいいぞ!』
地元のヤクザは、イカツイお兄さんの狂気におののき、たじろいだ。
すると、奥の部屋から割腹のいいおじいさんが出て来た。
地元ヤクザの親分だ。
(親分)
『事情は街の噂で聞いている。気持ちは分かるが、まだ女も幼子も生きているんだろう。そばにいてやったほうがいい。』
(イカツイお兄さん)
『ストーカー男と蛇が生きている限り、あの子らは安心して暮らせないんだよ。分かるよな?』
イカツイお兄さんの狂気は収まるどころか勢いを増す。
その狂気に共鳴した親分は言い放つ。
(親分)
『おい、蛇を探すのを手伝ってやれ。いい男じゃねえか。』
親分の一言もあり、地元ヤクザは蛇を探す。
数日もたったころ、蛇の居所が分かった。
蛇とストーカー男は、宝町の隣町の小さなパブで、水商売と風俗業を営みながら静かに暮らしていた。
イカツイお兄さんは地元ヤクザに情報を聞き、すぐに隣町に向かった。
(イカツイお兄さん)
『殺してやる』
蛇のいる小さなパブのドアを強引にこじ開け、
中にいた蛇とストーカー男に襲い掛かる。
数分もしないうちに二人を半殺しにし、
まさにこれから二人を殺そうとした瞬間、
(地元ヤクザの親分)
『おいっ、もうやめろ!』
イカツイお兄さんは、親分を見る。
邪魔をするならお前を殺すと言わんばかりの人相で親分を睨みつける。
(地元ヤクザの親分)
『お前さんがそんなカスを殺して、刑務所に入ったら女と子供が泣くぞ。
気持ちはわかる。でも殺ったらいかん。』
イカツイお兄さんの脳裏に●●子と娘と三人で仲良く過ごしていた思い出が蘇る。
イカツイお兄さんはこれまでで一番大きな声を上げ、泣き叫んだ。
地元ヤクザに引き連れられ、蛇とストーカー男は宝町の警察署に連行される。
警察に引き渡して数分もしないうちに、ストーカー男と蛇は解放された。
地元のヤクザとイカツイお兄さんはこの現実が受け入れられない。
『こんな凶悪犯をなぜ開放する。なぜ釈放する。』
そんな唖然とする中で、
一人のベテラン刑事がストーカー男と蛇を連れて出て来た。
(ベテラン刑事)
『この二人は無罪だ。』
ベテラン刑事の言葉に、また唖然とした。
続く。
続き⇨『とある不動産や~11話』