とある不動産や(物語③)

Aは高校には行かなかった。
父親には『働き口が見つかった。住み込みで働きに行く』
と一言だけ伝え、母親とは顔も合わさずに家を出た。

Aは、イカツイおじさんと同居することとした。

毎朝6時には、同居のアパートから近い公園でおじさんから格闘技を習う。

9時からは、法務局で土地の謄本の見方や、登記の申請方法、公図や測量図の見方など、地上げに必要な基礎を学ぶ。

昼からは、おじさんと街にでかけ、商業ビルやマンションをくまなく見て回り、街のでき方そのものを学ぶ。

夜は、不動産における契約書の見方や作成方法など多岐に渡り勉強する。

日々の生活費は、『店や入居者』の家賃滞納者から滞納家賃を回収し、その回収金額の半分をお礼金として頂く生業を行う。

始めはおじさんと同行し、やり方を見て覚える。
次第に、Aは自ら滞納者に催促し、滞納家賃をきっちりと回収できるまでになる。

そんな実務と勉強を3年間みっちり行い、おじさんは、次なるステップへとAに伝授する。

『地上げ』の仕方と、『地上げ』のトラブル対処法だ。

毎朝の格闘技の訓練がなぜ必要だったかは、すぐに分かった。

悪質な地上げ屋の中には、ヤクザまがいのチンピラに、ヤクザに依頼されている半グレもいる為、時には暴力も必要となる。

おじさんは言う、
『地上げ屋や不動産屋は、昔は仲裁屋と呼ばれていた。
字の通り、仲裁に入るわけだから、絶対にバランスを崩してはいけない。
仲裁として存在する為には絶対的な『知識』と『暴力』も必要だ』

Aには、もはやおじさんを疑う余地はなく、全て素直に吸収する。

ある日、おじさんとAは、隣町にある山を開発し、住宅街にしようと試みる大手の開発業者と仕事をすることになった。

大手開発業者の部長は、昔、おじさんに助けられた恩義があり、仕事を依頼してきた。
ただ、この仕事には大きな癖がある。

山には一か所だけ道路に接している部分がある。
その道路に接触している部分を所有しているのが『ヤクザ』だ。

数カ月前に、借金の取り立ての一部として、その山の道に接している一部を自分たち名義にしていたのだ。

補足として説明するが、道に接していない土地や山は『開発工事』ができない。
新たに道を作るか、道の所有者に、その部分を売ってもらうか、貸してもらうしかない。

もちろん、ヤクザはその価値と意味がよく分かっているため、いずれ住宅街になる可能性があると踏んだ『山の接道部分』を奪い取ったのだ。

おじさんは、Aと土地を所有しているヤクザの事務所に出向く。

おしさんは、ヤクザと、いくらなら土地を譲っていただけるか丁寧に尋ねる。

ヤクザは10億を要求してきた。

その山の土地はよくても坪2万円ほどだ。
ヤクザの所有坪数は道部分のほんの少しだけ、20坪程度だ。

40万円しか価値のない土地に、10億円。
おじさんは、丁寧に話を続ける。

『あなたたちがこの山の価値を分かっていることは私も理解しています。
しかしながら、10億円という数字となると、開発業者はすぐに諦め、
違う土地での住宅開発を進めようとする。
皆さんにとっても、あの土地をずーっと持っておくだけでは価値がないでしょう。真面目な値段を提示してもらいたい』

ヤクザは、声を荒げ、
『なめとんのか、10億ゆうたら10億じゃ』

おじさんは、それでも丁寧に話を進める。
『どうか、真面目な金額を提示してもらいたい。また来ます。』

次の日、Aとおじさんは再びヤクザの事務所に出向いた。

(ヤクザ)『熱心だな。負けたわ。1億、1億なら素直に売るわ』
(おじさん)『40万円の価値の土地に1億円は高すぎる。ただ、あの土地が欲しいのも事実。開発業者には私が責任を持って交渉しますから、せめて1,000万円で手を打って頂けないですか?』
(ヤクザ)『だめだ、1億円。これ以上は1円も下げん』
(おじさん)『・・・分かりました。業者さんたちと一度相談してきます。』

Aは、ヤクザに1億円を支払わないと、土地は売ってもらえないんじゃないかとおじさんに問いかけた。
おじさんは、『だまーって見とけ。ここからが面白い仲裁だ』

この山には一つだけ、ヤクザと関わらない手法がある。
別で新たな道を作る事だ。
しかし、この山は川でおおわれており、新たに道として認めてもらう『道路』を作るには5,000万円ほど必要になる。
開発業者としては、1億もヤクザに支払うなら5,000万円で新たな道を作るほうが賢明だ。

開発業者がおじさんに期待することは、
『2,000万円未満』でのヤクザからの土地買取だ。

おじさんには予算として2,000万円の幅があるという事だ。
ただ、2,000万円で売ってしまったら、おじさんの成功報酬はゼロだ。
何とか少しでも安く買って、報酬も得なくては意味がない。

またあくる日、おじさんはヤクザと交渉する。

(おじさん)『何とか業者よりめいいっぱいの価格を引き出しました。』
(ヤクザ)『いくらだ』
(おじさん)『1,000万円です』
(ヤクザ)『話にならないな』
(おじさん)『正直なめいいっぱいの金額であり、誠意込めた価格ですよ』
(ヤクザ)『あの山で新たに道を作ろうとしたら5,000万円くらいかかるだろ、そのくらいの計算は俺にも分かっている。なめるなよ』
(おじさん)『もちろんそうですが、だからと言って、40万円の土地に対して、5,000万円も支払えるわけではないですよ。そこも理解してほしいです。』

ヤクザはしばらく口を閉ざし、お茶を飲む。

(ヤクザ)『3,000万。これで手を打とう。』

(おじさん)『分かりました。改めて開発業者に相談してきます。またお伺いさせてください。』

Aは、
『ヤクザ相手にまともな金額まで値下げできたね。それでも高いよね』
(おじさん)
『ヤクザは金が欲しいだけだ。あれもまだ交渉の序の口、
ここからが地上げ交渉の勝負だよ』

Aは、おじさんがどのように価格を下げるのか全く分からなかった。

しかし、次の日、Aはおじさんの手法を目のあたりにする。

おじさんは、開発業者から買い取り予算額の2,000万円を預かる。
どうやら業者は2,000万円以上は支払えないことになったらしい。

Aはおじさんが、ヤクザに素直に、
『やっぱり2,000万円でお願いします』と報酬を捨てて、
頭をさげるのかと思っていた。

ヤクザ事務所についたおじさんは堂々としている。
笑顔でヤクザと接し、何事もなかったかのように。

ヤクザはおじさんに問いかける。
『3,000万円、準備してきたんか?』

(おじさん)『はい、何とか準備出来ました。』

Aは驚く。おじさんの鞄には2,000万円しか入っていない。

続く。
続き⇨『とある不動産や~4話』

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