今日から、数日に分けてフィクションの物語を投稿していきます。
お時間ある方、お付き合い頂けたら嬉しいです。
Aは、地元の小さな魚屋の次男坊、
幼少期は引っ込み思案で、口数も少ない為、友達からいっつもからかわれる存在だ。
Aは、毎日近所の公園に行く。
公園には砂場があり、Aは、砂場で遊んでいる近所の友達をじーっと観察する。
『僕もみんなとスコップでお山を作りたいな。』
そんなことを考えているAの前を二人の銀行員が通りすぎた。
Aは、なぜか吸い付かれるようにその二人の後を追う。
二人の銀行員が向かった先は、自分の自宅兼魚屋である『橋村商店』。
どうやら二人の銀行員は、Aの父親に用事があり話をしていた。
Aの父親はもの凄い形相で怒っていた。
その日から父親は酒を毎晩飲み、母親に暴力を振るうようになる。
母親は毎日泣いている。
Aと、Aのお兄ちゃんは、酔っぱらった父親が怖くて、奥の部屋に籠って出ていかない。
たまにAのすすり泣きが始まると、お兄ちゃんはAを抱きしめる。
そんなお兄ちゃんの目も涙が溢れそうなくらいいっぱいだ。
暴れたい放題の父親は叫び泣きながら酒を飲んでいる。
数週間後に父親が酒に狂っていた理由がわかった。
実家にスーツ姿のイカツイ大人達が押し寄せて来た。父親と母親は子供達の手を握る。
いつもお酒に狂い酔っている父親が、とても力のない声で
『すまない。』
すると、母親はポロポロと涙を流す。
Aが小学1年生になる3日前の出来事だった。
Aの家族4人は『橋村商店』を追い出される。次の日には自宅兼魚屋の解体工事が始まった。
古びた『橋村商店』の看板がショベルカーではがされる瞬間をAはただただじーっと見つめていた。
崩れていく自宅とはがされた看板を見ていたAの心の中で、何かが崩れていく音がした。
Aの家族は近所の『坂口コーポ』という賃貸アパートに移り住んだ。父親は魚屋の知り合いに頼み、自転車で15分程の海の市場で臨時職員として働く事になった。
母親は近所のスーパーで品だしのパートをして足りない生活費を補てんする。
Aの兄は7歳離れており、今年から中学1年生になる。
Aの兄は友達も多く、スポーツも万能でクラスの人気者だ。
Aは変わらず口を閉ざし、まわりが友達の輪を作り始めているのにも興味を示さない。
そんな無口なAに毎日話かけてくる同じクラスのタケル君。
休み時間に給食の時間、タケル君はいつもAを気にかけてくれる。
Aもそんなタケル君に徐々に心を開いていく。
Aはタケル君に誘われて近所の野球チームに入る事になった。Aの両親も、いつも物静かなAが自分から『野球がしたい』と言ってくれた事が嬉しくて、野球チームの入会を心よく承諾してくれた。
Aはタケル君と一緒に学校生活と野球に没頭する。少しずつAの心にぬくもりと平和が戻ってきた。
Aが小学6年生になる頃には、Aも野球チームの仲間や学校の友達が増えてきた。そんな最後の小学校生活の中で、タケル君から誘いが来た。
『今年のクリスマスは僕の家で皆でパーティーをしよう』
Aはとても嬉しかった。Aにとっては初めてのパーティーだ。
Aの父親は夜中3時には市場に仕事に出かけ、母親は毎朝6時過ぎにはスーパーのパートに出かけるため、Aは普段から夜8時前には寝る習慣になっている。
兄は高校生になってから友達や彼女の家で過ごす事が多くなり、家族との時間はほとんどなくなった。
Aは、夜6時からのタケル君家でクリスマスパーティーがあり、参加したいと母親に相談する。
母親は『せっかくだから参加していおいで』とAに伝える。但し、タケル君の家に行く事は父親には内緒にするように強く念押しをした。
クリスマスパーティーの当日、Aの人格形成に多大な影響を与える事件が勃発する。
タケル君の自宅は立派で大きくて、Aには夢のような家だった。
友達も集まり、クリスマスパーティーが始まる。ケーキを食べたり、プレゼント交換をしたり、子供達の笑顔が溢れて、本当に夢のようだった。
パーティーの途中でタケル君の父親が帰宅した。
Aは、どこかで見たことがあるタケル君の父親をじーっと見つめる。
『あ!あのときのスーツの人だ!』
小学校に上がる前に見た『砂場を通り過ぎた銀行員の一人』がタケル君の父親だった!
Aは臆せずに、タケル君の父親に話かける。
『あのとき父親とどんな話をしたんですか?なぜ橋村商店は壊され、僕達は出ていかないといけなくなったんですか』
タケル君の父親はギョッとし顔が強ばり、タケル君の母親に問い詰める。『なぜあの子とタケルを仲良くさせているんだ。』
タケル君の母親は、Aに帰るよう説得する。タケル君もまわりの友達も何が起きたかは分からず、ただ静かにヒソヒソとAが帰されるのを見つめていた。
Aは、なぜ自分の母親が父親にタケル君の家でのパーティーに参加する事を黙っておくように言われたか理解した。
いろんな感情が入り交じる中、この出来事で、Aの眼光は子供とは思えない、冷たくて鋭い目付きに変わっていく。
この出来事は、Aがこれから『有名な地上げ屋』となる一つの大きなきっかけとなった。
さらにもう一つの大きなきっかけはAの母親の実情だ。
Aはこれから見たくない、知りたくない現実を知って行く。
続く。
⇨続き、『とある不動産や~2話』