不動産売買は、全てがスムーズにいくことばかりではありません。
私も、長く不動産業界に身を置いて、数々の修羅場をくぐり抜けてきました。
その実例を、紹介していこうと思います。
今回お話しするのは、私が経験した中でも、1位2位を争う大変困難な思いをした事例です。
その不動産は、比較的人気のエリアの住宅地にある、空家(約90坪の敷地)でした。
所有者は、リフォームして貸し出すか、売却するか、どちらか迷っておられました。
私は、【リフォームして所有地を運用するシミュレーション】、【売却シミュレーション】、2パターンのシミュレーションを提示しました。
所有者へ提示したシミュレーション、特に【リフォームして所有地を運用するシミュレーション】は、各不動産業者の意見や不動産鑑定士も入れて質のよい素晴らしいシミュレーションで、自信を持って提示したものでした。
その空家を【リフォームして所有地を運用するシミュレーション】は、リフォーム費用300万円に加え、こちらのエリアは駐車場ニーズも高く、駐車場整備費用(8台分)として約100万円の、合計400万円の初期投資が必要です。
自己資金がないお客様でしたが、土地の担保評価が3000万円以上あり、融資が可能でしたので、お金に関して問題もありませんでした。
リフォームして借家として活用すれば、15年間の利益予想と、売却した場合の利益はほぼ同額でした。
リフォーム後15年借家として活用した後に、売却することも可能です。
あなたなら、『リフォームして所有地を運用』あるいは『すぐの売却』、どちらを選びますか?
私は当然、『リフォームして所有地を運用』するほうを選ばれるとばかり思っていました。
しかし、この不動産の所有者は、『すぐの売却』を選びました。
選ぶのは、当然所有者であります。
しかし、私は「15年運用した後にでも売却をしたら、利益は倍額になるのに」という思いから、
『本当に売却でよろしいのでしょうか?』
と何度もこの不動産の所有者に確認をしましたが、所有者の意見は変わらず、運用はせずに売却、という形に事が運ぶことになりました。
『今』現金が欲しい、とのことでした。
将来を見据えたらそちらのほうが断然利益が出ると分かっているのに、目の前の利益を選ぶ方もいるのだと、知りました。
シミュレーション作成の際にお世話になった不動産鑑定事務所の方のご縁で買主はすぐに見つかり、トントン拍子に売買契約が成立しました。
決済(物件引き渡し)は、契約から2か月後、という事になりました。
この2カ月の空白の理由は、
売主の負担による土地の境界確定作業(確定測量図面の作成)が、買主の条件だったからです。
不動産の売買ではよくあることなので、これは想定内でした。
また、費用負担も、『売却のシミュレーション』で説明済みのため、問題ありませんでした。
しかし、ここからが思いもかけず、困難の連続でした。
まず、境界確定を私が信頼している土地家屋調査士に依頼し、その家屋調査士が現場で測量中に私にこう言いました。
「この土地の地中に、裏に建っているマンションの上下水道が通っていませんか?」
え?
これこそ、その当時の私にとっては想定外の出来事でした。
私は、配管の図面をおそるおそる見直しました。
確かに1本余分に裏の隣地(マンション)から、線が入っていました・・・!
冷や汗が出る中私は、すぐに水道局、下水道局の方と配管業者に同席してもらい、現場で確認を取る手はずを整えました。
やはり、裏のマンションの上下水道配管が、売買契約が成立したこの土地の、地中を通っていました・・・
やっぱりか・・・
これは、大問題です。
気持ちを切り替え、私はすぐさま売主のところに出向き、対処法とリスク説明をしました。
他人の配管が通っている土地を好んで買いたがる方はいません。
もし建て替えをする際に地中を掘って配管があると、邪魔になるケースもあります。
買主や買主の相続人が将来売却する際には、とても厄介な問題になります。
私は、このようなことになった経緯を調べることにしました。
すると、次のようなことが分かりました。
見てお分かりの通り、今マンションが建っている土地に接している道路は、昔は川だったのです。
そのため、今回売地所有者の親の代の時に、マンション建設業者が上下水道の配管を今回の売地に通させてもらうようにお願いをし、売地を通して配管設置が行われました。
新しい道路が出来たのは、マンション建設完成後すぐのことだったそうです。
川のところに道路が出来ることを知っていたのに、建設業者が工事期間を短縮するため、当時の売地所有者である現所有者の親を説得し、今に至る、ということでした。
誰が悪いのか。
不動産取引に関して弱者であるお客様に必要な情報を提供せず、逆に会社に都合よく事が運ぶことを優先した建設業者とマンション販売業者です。
後のマンション区分所有者(13名)と今の売地所有者は悪くありません。
逆に、みんな被害者です。
しかし、その建設業者・マンション販売業者はすでに倒産しており、
このような隠れた瑕疵があった場合、買主は売主より優遇されます。(民法566条・570条)
よって費用負担は、
売地所有者とマンション区分所有者(13名)となります。
そこで、私が行った解決策は、
①裏のマンション区分所有者と上下水道配管移転について、話し合いをする
②上下水道配管移転費用をどちらが(売主と裏のマンション区分所有者)いくら負担するのかを決める。
費用負担が決まれば、あとは上下水道配管移転の作業の工程を組んで、工事を行うことができます。
と、簡単に書きましたが、とても大変な交渉でした。
マンション区分所有者13人が、必ずそこに住んでいるわけでなく、賃貸している方も数名いました。
まず、このマンション区分所有者13名を訪問・お手紙などでアプローチし、現場近くの公民館を借りて説明会を開きました。
説明会には、今回の売地所有者と家屋調査士、配管工事業者に同席していただき、
なぜ上下水道配管の移設が必要かを、説明しました。
マンション区分所有者も、当然この事実を知らない方が多く、なぜこのように他人の敷地に下水道配管が通っているのか、歴史をたどって説明しました。
この問題で大変だったのは、ご想像の通り、費用の問題です。
マンション区分所有者の過半数以上が、費用負担してまで配管移転を急いでやるメリットが我々にはないと主張してきました。
下水道・上下水道配管移転工事費用は約400万円必要で、
上下水道配管移転費用の理解をマンション区分所有者全員から得られない場合、売主のほうで全額費用負担をして(今回売主は買主から売買手付金500万円を保有していました )今回の売買契約を決済まで進ませるか、
あるいは買主に隠れた瑕疵の問題を説明し最悪は売買契約が無効になる、
ということを、マンション区分所有者の反応を想定して、売主とあらかじめ協議していました。
売主は、その際は自身で費用を全額負担し、売買決済を完結したい、とのことでした。
一生懸命交渉を試みましたが、結局マンション区分所有者全員からの理解は残念ながら得られず、売地所有者が上下水道配管移転費用を全額負担することを受け入れられて、隠れた瑕疵の問題はなんとか解決に至りました。
これで工事がスタートし、無事売買は完了できると思っていましたが、
またしても問題が起きました。
なんと、売買決済の一週間前というときに、土地家屋調査士から確定測量図の確定図面が上がってきていないという事でした。
信頼していた土地家屋調査士の方だったので、当然余裕を持って作成して頂いているものとばかり思っていました。私自身が確認を怠ったのも悪かったのです。
この時から、私はどんなに信用する人でも、なんでもしつこいくらいに確認をする癖がつきました。
話が逸れました。
私は、すぐに土地家屋調査士に連絡をし、事情を確認しました。
土地家屋調査士は、
「境界確定に納得いただけない隣地の方が1名おられます。それにより、完成図面としてお渡しが出来ません。」
とのこと。
その土地家屋調査士は、昔からの境界の杭が現地に残っているため、ある程度の完成形として測量図面を買主に提示すれば、売買契約違反にならず、かつ決済に支障をきたさないものだと、勝手に思い込んでいました。
そんなことは、ありえません。
確定図面作成は、今回買主の売買契約の条件です。
境界が確定していないと、その土地を購入後に分筆もできません。分筆とは1つ(一筆)の土地を複数に分けることです。
今回の売地は、約90坪ほどあります。
買主は、真ん中で分筆し、アパートを2棟建設しようと考えていました。
建築後は売却も視野に入れている買主であった為、土地の境界確定が出来ていないのは大問題でした。
けれど、ここで大事なことは、逃げずに、売主買主双方へきちんと現状と問題解決の方法を説明することです。
このような問題の解決は、2つあります。
①境界杭があるにも関わらず、境界確定に印鑑を押してくれない隣地に交渉する。
②交渉がうまくいかない場合は、筆界特定制度を利用する。
①は上手くいかず、結果②を採用することになりました。
筆界特定は、土地家屋調査士が法務局へ境界の根拠を持っていき、境界特定の申請をし、筆界特定登記官が筆界を明らかにすることです。公的な判断として筆界を明らかにできる為、隣人同士で裁判をしなくても筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。
境界を法務局に認めてもらうまでの期間は、約6カ月~8カ月ほどかかります。
さらに、筆界特定作業代が、追加で40万円程かかります。
幸い売主が、事前に聞いていたリスクの話であるという事でご理解を頂き、追加費用を認めてくださいました。
改めて、事前の十分なリスク説明の大切さを実感した出来事でした。
また、買主は、我々の行動に誠意があると感じて頂いたようで、決済は約束通りするが、筆界特定作業も完了させることを覚書に記し、納得してくださいました。
決済時期も、当初の予定通りで行い、筆界特定完了に合わせてずらさなくていいと言ってくださいました。
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このようにして、2度の危機を乗り越え、この売買契約を完結させることが出来ました。
記事を書いている途中でも、当時吐き気がするくらい毎日胃が痛かったのを思い出します。
結果的に失敗に終わっていないと感じるかもしれませんが、2度に渡って契約を進められない可能性があり、それどころか損害賠償請求もされかれない事案であったと思います。
この案件で、私はたくさんのことを身をもって学びました。
この案件を境に、配管図は、必ずくまなく確認するようにしています。
正直、運も味方してくれたと思いますが、
どんな局面でも、私自身誠意をもって対応し、逃げずに全力で問題解決に取り組んだ結果だとも思っています。
トラブルには巻き込まれないことが一番ですが、
あなたも、私のこの苦い経験を参考にして頂き、活かして頂ければ幸いです。
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