20年以上も前から数年前まで、大手ハウスメーカーと呼ばれる大手建設会社や大手不動産会社が売上・利益を増収増益できた大きな理由は『素人が簡単に稼げる仕組みを作った』という事です。
最近まで大学生だった若者が何の知識もなく、地主にある程度マニュアル化された営業トークや営業手法を活用すれば、年収一千万円もすぐに稼げるという仕組みです。これは事実です。
実際に私もその恩恵に預かりました。
20代で年収一千万円を超えた年は、2回はありました。
中には、年収二千万円越えの営業マンもいて、業界トップクラスの建築営業では年収一億円越えもいました。
当時は本当にたくさんいました。
なぜ素人がこんなに稼げるような仕組みが出来たのか、これに焦点をあてて解説致します。
2000年を超えたあたりから、アパートやマンションを管理運営している不動産業界にとって、多くの問題が表面化しました。
『悪質不動産会社とのトラブル』『家賃滞納者による家賃収入の不安定』『自殺者が要因で事故物件となった場合の不動産価値の減少リスク』『必ず満室になるとは限らない大家の入居不安』『築年数が古くなると必ず下がる家賃の下落リスク』あげてはきりがないくらいの問題が浮き彫りになってきました。
おそらくこのような問題は昔から存在していたはずなのでしょうが、大家さんのような資産家と呼ばれる人たちは、庶民からすればあまり身近に感じないため、お金持ちがお金を稼ぎづらくなっただけとしか認識はしないでしょう。
しかし、その時代に普及率が加速していったものがあります。それはパソコンです。パソコン普及率の大幅増加と共に、世間は色んな問題や事件などをネットに載せます。誰でも検索すれば何でも知る事が出来るという時代の変革です。
ここに目を付けたのが大手ハウスメーカーとして名を上げ始めた企業たちです。その企業の創業者達は現代の問題を逆手に大きくビジネスモデルを作り、不動産業界や建設業界のシェアをいっきに奪います。
アパートマンションの管理や運営での苦労の多い経験をした大家さん、その苦労のほとんどは弊社が解決できます。
この言葉通り、大手ハウスメーカーは、『満室家賃保証』『家賃の定額保証』という謳い文句で多くの大家さんに興味を持たせました。
次に、地主へ猛アプローチをします。地主の中にはアパートやマンション経営を経験している人が多い為、従来のアパートマンション業に不安を持つ地主が大手ハウスメーカーの仕組みに賛同しアパート建築契約が増えます。
そして増えたアパートを一括して借りて、今度は不動産会社として部屋を貸出し、管理運営を行います。
これにより、アパートの建設費の利益とアパート事業での継続する利益を確保できるのです。
建設の利益は、中堅建設会社の建設費からプラス二割~四割、アパート事業での利益は一括して借りているアパートマンションを入居者に貸し出し、アパートオーナー(大家)には定額の賃料を支払い、その差額で儲かるという仕組みです。
これだけを聞くと、『皆が儲かり、特に問題はないんじゃないか』と思う人もいるかもしれません。中には、自分もそんな営業をして年収一千万円がほしいと思った人もいるかもしれませんね。
実際に私も昔は、『この仕組みでお金をたくさんもらえるならいい商売だ』と本気で思っていました。
でも現実は違いました。
アパートを建設してくれた家主に支払う一括賃料は築年数が古くなったり、経営が苦しくなれば家賃を減額します。リーマンショック(世界的に起きた金融ショック)の2008年ころから、多くの大手ハウスメーカーは家賃を必死に下げる交渉を家主と行いました。
どこの企業も2009年ころから五年くらいは家主に支払う家賃を下げるのに必死でした。
中には解約を迫られる物件オーナーもいたと聞いています。
不景気になると入居者の家賃滞納者は増え、空き部屋も増え、貸出せたとしても値下げした家賃で貸し出す為、家主(物件オーナー)に定額賃料を支払った後は利益が残らず赤字経営となるからです。
家主は自分の利益が減るのが嫌ですから、とても抵抗します。
『お前ら営業が家賃は30年間ずっと下がらないと言ったから契約したんだ。約束が違うじゃないか。家賃の減額は応じられない』このような家主も多かったです。
中には、『こんな大変な状況でも家賃をなんとか支払い続けてくれてありがとう。減額には応じるよ』と優しい家主もいます。
おそらく大手ハウスメーカの家主(物件オーナー)で理解をして頂ける方は全体の六割ほどだと思います。残り四割は、グダグダと理屈や我を主張し、非建設的な対応をする家主と完全に拒絶体制で挑んでくる家主にわかれます。
ちなみに、大手ハウスメーカーの建物賃貸借契約書には一括賃貸料について明記されていることがほとんどです。
内容は、『〇〇年は現在の家賃を固定します。〇〇年後は経済事情の変動・近隣同種の相場家賃・その他租税の負担により協議する事』となっています。
また、法的には借地借家法により、大手ハウスメーカー側(家主より一括して借りている側)には家賃減額請求権も存在します。よって、家主が不当に家賃の協議を拒否され、グダグダ理屈をこねてもまかり通りません。
大手企業は、協議を不当に拒み、協議できたとしても受け入れられない金額提示での減額金額を何度も同じように主張する家主へは強行突破を行います。
すなわち、企業側の主張する金額しか家主に振込まないという強行手段です。これは実際に何万件と起こっている大手ハウスメーカーの実態です。
アパートやマンションを持たない庶民からすれば、大手企業もドライで残酷にうつり、アパートを所有している家主にも『あんまりわがまま言いすぎじゃないか』と思えるのではないでしょうか。
このことについて、大手ハウスメーカー側も家主側もどちらも特はしません。
ここから私の本音で解説を致します。
まず、家主が怒ったりわがままを言う気持ちは多少理解しています。
なぜなら、アパートを建築契約するときに、営業マンからいい話ばかりを打ち込まれ、このアパートは将来に渡り何の不安もないという洗脳的な営業を行っている営業マンも多数存在するからです。
自分を保護する意味ではないですが、私はアパートを建設すれば将来が安泰となりほとんどの問題を解決し、何の心配もいらない、家賃も何十年も下がらないなんて営業トークで地主を契約誘導したことはありません。
それは、出来れば不動産業という職業で一生のお付き合いを地主としたいからです。
会社を辞めても、私が開業した後も大切な顧客として私とお付き合いをしてほしいからです。
嘘ばかりを言う先輩社員や上司を私は軽蔑していますので、私の人生において稼ぐためにリスクもきちんと説明し、極力現実にそってお話をしてから契約を頂き、さらにはなるべく長く頼っていただき、今後も不動産業者として信頼を頂き商売をしたい。そう決めて営業を続けてきました。
この言葉は10年以上前から口にしていた言葉ですが、はたして何人の人に共感を頂けたのかは正直分かりません。
とはいえ、大手ハウスメーカー、大手建設会社の多くの社員は自分の営業成績のためと歩合給を何百万と貰うために必死で嘘をついてでも契約を取りに行っていたのも事実です。
たまに感じていたのですが、本当に家賃保証や一括賃貸料の家賃は下がらず、何の心配もいらないで何十年と賃貸事業が完遂できると信じていた社員は本当にたくさんいました。
ここで大きな問題となる『大手ハウスメーカーの洗脳教育』という問題があります。
実例でお話を致します。
私が入社してから3~4年程は特にこの洗脳教育が蔓延していました。
『当社の賃貸事業の仕組みは他社企業にはない仕組みであり、オンリーワンの事業であるため、また他社は真似が出来ないところまで達した。よって、賃貸借契約上では、固定賃料は最長10年固定としているが、実際には家賃は下がらず運営できる事業であり、これにより家主は何の心配もなく事業を完遂できるはず』というシンプルな洗脳教育です。
私が入社してから5年程は築年数が15年でも家賃減額がされていなかったため、多くの社員はこの現実によりアパート事業は本当に凄いと心から思って営業していたと思います。
そしてこの洗脳教育に染まった多くの社員の特徴としては、『深く考えず、勉強もせず、ただ素直な社員』であったと思います。
私は物事を斜めから見るクセが強かった為、『そんな何十年先のことなんて断定できるわけない』と密かに思っていました。私のような社員も少なからず存在していたのも事実です。また極まれに不動産や金融について『知識と経験値』を持っている上司もいました。私はその方のおかげで『会社に頼らず生きるための』知識やスキルを日々磨く事の大切さや商売への考え方を学べたのでラッキーでした。しかし、数にすると圧倒的に会社を信じて営業活動をしている社員が多かったです。
そりゃそうですよね。何の知識も経験も無き素人が数年内に年収一千万円を稼げて、いっきにステータスを上げてもらったわけですから、そんな会社でしかも東証一部上場企業であれば疑う余地もなかったかもしれませんね。
大手ハウスメーカーの営業トークによりアパートを建設してしまったと思う家主さん、実情はこのような状況でした。自分の歩合報酬や成績の事ばかりが頭を占めている上司がほとんどでしたので、地主の立場に立って本気で考えてプランを一緒に立てようとした社員は極々少数のさらに少数です。
いたとしても、欲の強い上司の圧力により『誠実な提案』がしにくい環境です。
この環境の中、自らの人生目標を立て、勉強し、ポリシーをもって挑むという事は並大抵の覚悟では出来ません。
『そんなに自分の考えでやりたいのなら会社を辞めて自分で勝手にすればいい』私は何度かこの言葉を言われた経験があります。
ここで少し整理させて頂きます。
まず、大手ハウスメーカーに騙されたと思う、社員の誇大営業トークの実態は、
- 『素人が簡単に稼げる仕組みを作った』
- 『大手ハウスメーカーの洗脳教育』
この2点が、家主にいい話ばかりをしてきた要因です。経営陣や上層部クラスの権力者が原因です。
そしてその洗脳と仕組みを利用してきた中間層の管理職もまた同罪です。
自分が稼げればそれでいい。これが当時のハウスメーカーに萬栄していました。
『今だけ、お金だけ、自分だけ』投資の悪式三原則ですね。
今、この本を読んだ大手ハウスメーカーの元上層部・経営陣は何を思うのでしょうか。
たぶん、何も感じないでしょうね。
今はどうでしょうか?
リスク説明義務に誇大広告や誇大営業の禁止などの法整備が進み、また市場自体がホワイトな営業をしている会社を好む傾向が強まったことから大手ハウスメーカーの洗脳教育は実質終わりを迎えたと思います。
洗脳教育が終わったという事は、ハウスメーカーのアパートマンションは益々減少するという事です。
リスクもきちんと説明すれば、建築契約に至らない地主も増えるからです。
それでも大手の安心感やブランドに強い信頼を持つ人も多いですので、ある程度健全な状態で推移するのではないかと思います。
しかし、良き時代の体制下での生活や営業脳に侵されているベテラン営業マンはまだまだ多く存在します。
何かあれば、『数字にこだわる』『利益重視』というクセは変わらないでしょう。
もちろん数字も利益も大切です。ただそれよりも大切なことは『人としての良心』であり、心です。
この内容を見ても綺麗ごとだと思う人は、まだまだ変わる事が出来ない人です。
ピンっと来た人は既に大切なことに気づいたという事でしょう。
私が発言しても説得力は弱いですが、『稼ぐ⇨経済的に豊かになる⇨幸せを感じられる』ではありません。
『豊かな心を持つ⇨人に喜んでもらえるように行動する⇨稼げる⇨経済的に豊かになる』だと思います。
私も意識をして実践中ですが、どうしても欲が出てくることが多いです。
それでも自分で覚悟を持って取り組めば、今まで見てきた風景や景色が少しずつ変化していきます。
性格や価値観によると言われたらそれまでですが、たった一杯のビールやハイボールの味が今までとは違う格別な味に感じるのは自分の精神状態が少しずつ変化している証拠ではないかと実感しています。