『宝町(たからまち)』は、
人間の欲が色濃く反映されている町だ。
昔の宝町は、戦争に負けたこの国の掃き溜めのような町だった。
若い女性は米兵に侵され、
男は奴隷のように働かされる。
中には、外国に人身売買された人も多い。
そんな掃き溜めの町を、
この国の人が過ごしやすい『街(まち)』に変えた人物がいる。
体は小さいが、負けん気が人一倍強い。
小さな体で米兵に立ち向かい、どんなにやられても何度でもやり返す。
そんな小さな侍を、米兵たちは『クレイジーボーイ』と呼んでいた。
クレイジーボーイは、仲間を集め、
女たちが侵されている現場に出向き、
米兵を片っ端から刺していく。
米兵は体が大きくて、強い。
それでもクレイジーボーイの軍団は引き下がらない。
(クレイジーボーイ)
『俺たちの町だ!戦争で負けても、喧嘩じゃ負けんっ!』
クレイジーボーイは、たちまち『町のボス』となっていった。
クレイジーボーイの生活は日々忙しい。
朝は、港に出向き、輸入・輸出の仕事を請け負い、
船に積み荷を積んだり卸したり。
昼は、仲間や部下に『屋台』を出させて、
この国の人達に『安くてうまい飯』を提供する。
夜は、お酒や風俗などを取り仕切るようになる。
少しずつだが、町が『街』らしくなってきたころ、
よその街からゴロツキが、甘い汁を吸おうとやってくる。
米兵にゴロツキにチャイニーズギャングに朝鮮団体と、
次々に『宝町』を乗っ取ろうとやってくる。
さすがのクレイジーボーイも、疲れてくる。
みんなが体に大きな傷やケガを負う毎日だ。
クレイジーボーイは、この国の軍隊出身の人間を集めた。
格闘技に長けた人間を集め、町の人や店を守らせた。
のちに、このクレイジーボーイは、
この国初の『セキュリティ会社(警備会社)』を設立する。
時代は戦後から高度成長期に移り、
仕事が増え、物が世の中に出回り、暮らしが豊かになっていった。
クレイジーボーイは、地元の警察とも仲良く、いい関係を築いていた。
ただ、高度成長期に伴い、人の暮らしが豊かになり、
米兵も基地以外では、でしゃばらないようになってきた頃、
警察にとって、
クレイジーボーイのようなヤクザや外国人団体のギャングが邪魔になってきた。
警察の言う事も一理ある。
クレイジーボーイの団体はヤクザと称され、数年はよかったが、
組織が大きくなるにつれ、悪さをする『悪いヤクザ』も増えていった。
クレイジーボーイも組織の人間全員に、
『制裁と決まり事』を重んじさせるが、
上手に抜け道を探し、悪さをする人間が絶えない。
クレイジーボーイも
『こんな組織にするつもりはなかった』と悔やんでいた。
警察の権力が益々強くなり、
『国家権力』とまで称されることになり、
今までのように『ヤクザやギャング』とつるむ必要はなくなった。
というよりも、警察にとっては、
警察官以外の人間が銃を使い、
暴力を使うといった団体を許してはいけない、という立場になった。
警察は、全国のヤクザやギャング・海外マフィアをいっせいに取り締まった。
中には、『クレイジーボーイ』のような男気ある人間もいるのだが、
国家権力の前では『邪魔な存在』となった。
ある日、クレイジーボーイが捕まり、
『公開死刑』が決まった。
『宝町』にとって、クレイジーボーイの公開死刑は、
『時代の終わり』と『新しい時代の幕開け』の両方の意味があった。
公開死刑の前日、
クレイジーボーイは、自分の組にいる『見習いのヤクザ』を呼び出した。
(クレイジーボーイ)
『おい、なんでお前を呼んだかわかるか?』
(見習い)
『自分は見習いの立場なんで、何か買い出しの用事ですか?』
(クレイジーボーイ)
『お前、この間、一般の人がやっているお店で暴れていた幹部の連中をのしただろ。あれは、お前の上司の上司にあたる立場のヤクザだぞ。
なんで我慢できなかった?』
(見習い)
『一般の真面目にお店をやっている人間の店で組の人間が暴れたんですよ。
しかも理由がくだらない。その店の娘が美人で、幹部の一人が惚れているけど見向きもされないからって理由だし。そもそも男として情けない。
組の人間が男として情けない事をするという事は、
親分の顔に泥を塗り、親分が情けない男だという証明になります。
俺は、親分にそんな思いをさせるわけにはいかねえし、
そんな事を想われるようなことを黙ってはいられなかったんですよ。』
クレイジーボーイは、牢屋の柵から腕を伸ばし、見習いの頭をなでた。
(クレイジーボーイ)
『それでいい。そのまま大きくなれ。』
クレイジーボーイは、そう言い残すと、
見習いに紙とペンを持って来いと要求した。
次の日、クレイジーボーイは公開処刑にて死んだ。
組織は、次の跡継ぎでお祭り騒ぎのように騒いでいる。
組織の幹部たちで、
『次の親分は誰にするか』
という『椅子取りゲーム』のような緊迫した話し合いが始まった。
議長を務めているのは、古参の老人。
若い頃からクレイジーボーイといつも一緒に戦ってきた、
『初期のメンバー』である。
この古参の仕切りには誰も文句はない。
(古参の老人)
『次の跡目は決まっている。親分が遺言を残していた。』
『親分』になりたがっている幹部達の胸が高鳴る中、古参は幹部全員を見渡し、言い放った。
(古参のヤクザ)『跡目は、『見習いのヤクザ』が継ぐこととなった。以上』
組織としては異例で、当然に不満を言う幹部もいる。
ただ、親分の遺言は絶対だ。
のちに、この『見習いのヤクザ』は大親分となり、
『宝町』の裏の顔として君臨する。
『弱きを助け、強きをくじく』という言葉通り、
立派な任侠道を全うした。
そして、
それから20年後に片目のイカツイおじさんと出会うことになる。
終わり。
新しい作品⇨とあるお店の物語『カランコロン』