「賃貸アパート経営」「マンション投資」といった名で富裕層の間で用いられてきた節税策が封じられる見通しです。
政府は税制改正や監視強化により、相続税や所得税などを厳しく課します。
不正融資や不適切工事の舞台となって来た賃貸住宅建設は課税面からも抑え込まれ、地価の下押し圧力になるとの見方も出ています。
ご存じの通り、賃貸経営は自己資金や借入金によってアパートやマンションを建てて家賃収入を得ます。
定期収入が入って老後は安心、などという文句で不動産会社や金融機関が、
富裕層を勧誘し賃貸住宅の建設需要を掘り起こしてきました。
さらに賃貸経営は節税余地が大きいことにうま味がありました。
やり方次第で家賃収入にかかる所得税を減らし、将来の相続税も抑えられます。
富裕層の気を引こうと関連業界では様々な節税策が編み出されてきました。
その典型が「消費税の還付スキーム」。
アパート施工業者に払った建設費用の中からそこに含まれる消費税10%分を取り戻す離れ業。
建設費が8000万円なら最大800万円が戻ります。
からくりは、消費税特有の仕組みにあります。
消費税は事業者が売上高の10%を国に治めますが、通常は仕入れの段階で費用の中に消費税分が含まれています。
二重課税を避けるため「仕入れ税額控除」といって、その分を納税額から差し引けます。
ただし賃貸経営で主な売上高となる家賃はもともと消費税がかかりません。
売上高自体が非課税なら控除も不可なのが消費税の原則。
家賃収入だけだと本来、控除を受けられません。
そこで考え出されたのが
「作為的に消費税の課税対象となる売上高を立てる手法」です。
常套手段が「金地金」の取引です。
消費税の対象である金を売り買いして売上高を作ります。
すると、仕入れ税額控除が認められ、払った建設費用の中から消費税分が還付されます。
賃貸と金取引は無関係に思えるのに、この裏技は広く用いられてきました。
かつては「自動販売機」も使われました。
今は禁じ手ですが、
自販機を設置して売上高を作り税還付を引き出していました。
このような消費税還付スキームを封じ込めるため政府は、
2020年度の税制改正の中で消費税法を見直します。
賃貸住宅建物の取得については仕入れ税額控除の適用を認めない、
という中身です。
財務省主税局によると、今後は、
「いかなる手法を用いて課税売上高を作ろうとも控除は認めない」
とのことです。
新築する場合は4月以降、中古で買う場合は10月以降に契約する分から適用されます。
その前に手を打とうと急ぐ動きもあるようなのですが、「税務署から税務調査を受ける可能性が高い」と税理士の多くは見ています。
相続税についても税務当局が監視の目を光らせています。
賃貸不動産は一般に相続税の課税ベースとなる評価額が低くなりやすいです。
現預金などで相続するより税額が少なくなる例が多いです。
将来の相続税負担を減らそうと、
高額の借入をしてまで賃貸住宅を建てる富裕高齢者は少なくありませんでした。
不動産会社と組む金融機関は、
条件の良い案件には低利で融資してきたようです。
ところが最近、税務署が税務調査で評価減を否認する例が目立ってきました。
中には路線価すら認めず購入価格で課税し直す例もあります。
特に厳しく見るのが、80代、90代の高齢者が賃貸経営の話を持ち掛けられて着手していたような「駆け込み節税」です。
直後に相続が起きて、
【節税以外に理由が見いだせないと税務署は否認しやすい】ようです。
税務当局は相続税だけでなく、賃貸経営に伴う不動産所得にも厳しく対応しています。
不動産所得は家賃収入から必要経費を差し引いて計算し、
経費が大きいと所得税・住民税は減ります。
対策として自分や家族を役員として不動産管理会社を設立し、
そこに物件を移して経理処理する例が多いです。
それ自体は問題ないのですが、管理会社に払う管理料を必要以上に高く設定する例が後を絶たず、ここ数年は、管理料が一般的な水準より少し高かっただけで税務署が執拗に修正申告を求める例が増えているそうです。
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以上、2月29日付の日経新聞からでした。